2024/12/06 10:26
はじめての冬のユーコン。アイスロードを走って北極海の集落タクトイヤクトゥクに到着したところまでが、前回のお話しでした。今回は計算になかったタクトイヤクトゥク滞在記です。
僅か187km。軽い気持ちで向かった辺境の地でしたが・・・これが遠かった。到着した時には既に薄暗く-極夜なので日中でも薄暗いのだが-とんぼ返りするのは、かなりやばい。そこで、ひと晩の宿を探すことになったのだが、道行く人は皆無。声をかけるにも相手がいない。
そこでスーパーマーケットを探し、店員に声をかける。曰く『こんな季節に訪れる観光客はいないから、営業している宿泊施設はない』と。・・・困った! するとレジに並んでいた女性が、B&Bのオーナーに電話してくれた。水道管を開け、暖房の燃料を入れ部屋を暖めるから、暫くそこで待っていろと伝えられる。(なんて優しいの~)
こうしてひと晩の住処をゲットすることができた。いつものことながら、ぎりぎり滑り込みセーフだ。夜半、静かな、そしてスペシャルなオーロラが現れた。オーロラベルトの内側にいるので、通常の反対方向=南の空を中心にオーロラが出るのだ。自分が移動してきた距離を実感した。

翌日の朝は胸騒ぎで目が覚めた。窓の外は真っ白。ブリザードでこの日のアイスロードは通行止めだ。仕方がなく撮影しながら彷徨いていると、『夕方からコミュニティホールで結婚式があるから遊びに来なさい』とお誘いを受けた。またしても優しさに、感謝! 結婚式には集落の皆さんが大集合、踊りや歓談を楽しみ、カリブーの肉などのご馳走を頂いた。ここタクトイヤクトゥクは、"カリブーが多く集まる場所"という意味があるようだ。
夜になるとブリザードはピタリと止んで、またしてもオーロラが夜空に舞った。この晩は大晦日。一斉に花火や銃声が鳴り響き、若者がスノーモービルで集落の中を疾走する。どこにもあるような年越しの風景だ。

翌朝。またしてもブリザードが吹き荒れ、アイスロードのゲートは閉じたまま。この日のブリザードは強烈だった。50~70km/hの爆風で体感温度は-40℃以下。予報によると、あと2日間は止みそうもなく、1週間後の帰国便を考えると心配な展開になってきた。
外に出ることもできず、部屋に籠もっていると電話が鳴った。『隣の家の住人だけど、ランチをご馳走するから遊びに来ないか?』と。なんて優しいの~ 視界が完全に遮断されるブリザードの中、ランチタイムにお隣へ。部屋の中は暖かで、半袖でも暑いくらいだ。まず出てきたのはベルーガ(小型の鯨でいわゆるシロイルカ)だ。一皮剥いでウル(イヌイットが使う扇形のナイフ)で切り分け、皮と脂肪部分を食べる。特に臭みはないが、ヌルヌルしていて味もない・・・子供たちはケチャップやバーベキューソースを付けて食べていた。極北地域では、貴重なタンパク源だ。

次に出てきたのはカリブー料理。肉の固まりをグリルで焼いただけのダイナミックな料理で、ジャポニカ米とカリフラワーのサラダを添え醤油をかけて頂いた。
夜になると、ブリザードはまたしても止んでオーロラが現れた。オーロラが現れたのは明け方の4時頃、それも見過ごしてしまいそうな弱い光だ。そして数時間後にはまたしてもブリザードが再開する。

1月3日、やっとブリザードが去り、天候回復。アイスロードの整備・点検には数日かかるのだが、この年は温暖化の影響か氷の状況が良くないようだ。7日の朝までに、ホワイトホースまで1500km走らなければならない。来た時のように、途中でスタックしたらアウトだ!
夜を徹して整備していたようで、5日の朝にはアイスロードがやっと開通した。最大の難所、デンプスターハイウェイの道路状況、天気予報をチェックし、荷造りして、9時前に出発。途中、アイスロードをタクトイヤクトゥク方面に向かう犬ぞりの一行に遭遇した。そりに荷物を満載し、後ろを人間がスキーを履いてついていく。犬ぞりは、現役バリバリの運搬手段だ。

難所を難なくクリアーし、中間地点イーグルプレインズに23時に到着。ここでオーロラ撮影をしながら、翌朝ガソリンスタンドが開くのを待つ。月が登り始めたのを見ていると、一筋の光が立ち上がり、オーロラが現れた。この日のオーロラは穏やかで明け方まで続いたが、余りの寒さでギブアップ。仮眠後、給油して再び走り始めた。
未舗装のデンプスターハイウェイを10時間掛けて抜け出し、ホワイトホースまでは残り500km。ここからは舗装道路だが、凍結しているので油断は禁物だ。途中、仮眠を入れながら6日午後に無事に帰り着いた。

タクトイヤクトゥクの5日間のスタック。少しだけ極北の人々の生活に触れ、連日のオーロラも満喫した。最も印象的だったのは、僕が日本人だと知ると『ミチオを知っているか?』と多くの方から話しかけられたこと。サイン入りの写真集を見せてくれた人もいた。極北の人々の中に住む星野道夫さんの存在を強く実感する旅になった。
今回の走行距離は3,885km、平均速度55.2km/h。車を過信しないこと、スピードを出し過ぎないこと、とにかく「止まれる速度で走ること」を肝に銘じて運転した。ホワイトホースに住む友人の、今回の旅の話をすると、全員が同じことを言った。『セダンで行く奴はいない。おまえはクレージーだ!』と。もしアイスロードを走ってタクトイヤクトゥクに行きたい方は、くれぐれも4WDをレンタルして下さい。それと旅の予定は余裕を持って!