2024/12/06 09:44

エリアと飛べる場所の違い
2006年夏のスタックした旅(Vol.2 真夏のオーロラ)から戻った僕は、翌月にはパラグライダーで飛ぶためにユーコンに舞い戻った。パラグライダー好きは世界中どこにでもいる。2006年当時、ユーコンには10数人ほどのフライヤーがいたが、ネットを駆使しコンタクトをとり初フライトは一緒に飛んだ。

パラグライダーで"飛べる場所"は、歩いて上れば良いのでたくさんある。ただし日本のように管理された専用エリアではなく、"飛べる場所"=全ては自己責任だ。

世界中で一番美しい場所
中でも僕のお気に入りは、トゥームストーン準州立公園。チョット遠いが、ホワイトホースからクローンダイクハイウェイ(2号)を500kmほど北上、北極圏に続く未舗装路のデンプスターハイウェイ(5号)に入り75kmほど走ると到着する。ここまで来ると風景は一変する。息を呑むような絶景の中に足を踏み入れると、根を張った小さな苔や植物にシューズが埋まり、まるでスポンジの上を歩いているようだ。まぁ、日本だったら絶対に立ち入り禁止になるようなロケーションだが、どこをどう歩いても誰もとがめる者はいない。

パラグライダーと野生動物
その中をパラグライダーの機材を背負って数百mも登れば、地球を感じるような荒涼とした風景が目の前に広がる。風の様子をチェックしながら、離陸に適した場所を探す。タイミングを計って飛び立てば、自分が極北の景色の一部になる。ある時、双眼鏡で山を見ているとドールシープの群れを発見した。急いでパラグライダーとカメラを担いで、小走りで山を駆け上がった。驚かさないよう注意しながら、ゆっくりと群れに接近し撮影。下りはパラグライダーでひとっ飛びだ。


ゴールドラッシュの街へタイムスリップ
山の登るのは少し・・・という向きには、ドーソン・シティがお薦めだ。ホワイトホースから約540km、人口は1300人ほどの小さな町だ。かつてゴールドラッシュで賑わったこの町は、当時の建物が保存され、軒先に伸びるウッドデッキや未舗装の道がまるでタイムスリップしてしまったような錯覚に陥る。町の裏にどびえる高低差530mのミッドナイトドームが、パラグライダーのテイクオフだ。舗装道路が完備され、15分ほどでアクセスできる。山頂は絶好のビューポイントで、ユーコン川に合流するクローンダイク川、そしてゴールドラッシュの中心地となったボナンザクリークを始めとするゴールドフィールドが見渡せる。夜はこの山が絶好のオーロラ観測スポットになる。


カヤックにパラグライダーを積んで
2014年にはカヤックにパラグライダーを積んで、ユーコン最北にある先住民の集落オールドクロウまで400kmの川旅を楽しんだ。滞在最終日、集落の北にある高さ800mのベリーヒルに登った。風が強く七転八倒の末に漸くテイクオフしたが、高低差約300mを飛んで無念のランディング。トボトボと道なき道を歩いていると、集落の中から飛び立つ様子を見ていた人が四輪バギーを駆ってピックアップに来てくれた。集落まで約7km、歩いたら2時間以上はかかっただろう。ユーコンの人々は総じて優しいが、彼らは輪をかけて優しい。

ユーコンスタイル
ユーコンは他人が庭先を横切ろうが、ランチをしようが「俺の土地に勝手にはいるな!」という輩はいない。だから、どこから飛ぼうが、どこに着陸しようが全くの自由。それほど広いと言うことなのだろうが、全てのリスクは自分にある。それを受け入れられれば、ユーコンほど楽しい場所はない。この感覚が僕にはピッタリとはまった。極北の風を感じ、大地の臭いを感じ、ユーコンの大きさを感じる。フライトすることでユーコンの全てを五感で感じることができる。


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