2024/12/06 09:26
今回はユーコンを最も有名にしている大河、ユーコン川の話しをしよう。ユーコン川はブリティッシュコロンビア州のアトリン湖を源流とし、ユーコン準州~アメリカのアラスカ州を流れベーリング海まで全長3185km、極北を代表する大河だ。ユーコンの由来は初回で触れたように、先住民の言葉で『最も偉大なる川』の意味を持つ「ユーコー」に由来し、ハドソン・ベイ・カンパニーの商人がこの地方を「ユーコン」と呼んだことで名称が定着したと言われている。ハドソン・ベイ・カンパニーは英国の貿易会社で、西部カナダの開拓を積極的に進め、英国のウール製品とビーバーの毛皮を物々交換していた。当時、ヨーロッパではバービーの毛皮を使った帽子の需要が高かったという。

ユーコン・リバー・クエスト
ホワイトホースからドーソンまで、715kmをノンストップで漕ぎきる。この時期、白夜なので夜通し漕ぎ続けることができるのだ。このクレージーなレースに、2011年の初夏に出場した。カテゴリーはソロカヌー、タンデムカヌー、ソロシーカヤック、タンデムシーカヤック、タンカー(大人数が乗る大型のカヌー)があり、僕はユーコン在住の友人とタンデムカヌーでエントリーした。
今回のチャレンジは、いつもと勝手が違うカヌーという新しいフィールド。それも穏やかに流れる時間を楽しむカヌートリップと違い、絶え間なくパドリングし続けなければならない。ルールはシンプルで8つのチェックポイントを通過し、そのうち2箇所で上陸し、それぞれ7時間と3時間の休息を取らなければならない。それ以外は上陸するのは自由だが、殆どのチームが食事もトイレもカヌーの上で済ませる。
難所50kmのラバージュ湖
スタートの合図とともに、300mほど走ってユーコン川に沿って並べられた自分のカヌーに乗り込む。今回は順位ではなく完漕が目標。さすがに715kmの長距離ともなると、ちょっぴり不安な気持ちになる。最初の難所が、長さ50kmのラバージュ湖の縦断だ。正午にスタートして湖の最初のポイントを17時過ぎに通過したが、とにかく広いので流れもほとんどなく漕ぎ続けなければならない。ラバージュ湖の最後のポイントで20分ほどの長い休憩を取り、汗をかいたシャツを着替え防寒用の衣類を身につけた。
不思議な時間
1回目の休息は、323km地点のカーマックス。上陸すると満足に下半身が動かずに、自力で歩くことができない。食事を済ませテントに潜り込んだが、直ぐに深い眠りについた。後半の392kmは、アクセスできる道路のないユーコンの原野の中を漕ぎ進む。どこまでも続く単調な時間の中で、自然の景色が唯一の楽しみだ。
2回目の休息は528km地点のカークマン・クリーク。ヘッドライトを付け、ライフベストの上から防寒用のジャケットを着用、23時52分に漕ぎ出した。パートナーがいるので、常に会話をしてコミュニケーションを取っているのだが、ひとたび漕ぎ出してしまえば相手の顔を見ないまま何十時間も時間が過ぎていく。何ともいえない不思議な感覚だ。
岩壁が笑い出す不思議な体験
一番の大敵は眠気だ。特に後半、明け方は船底を伝わってくる寒気と強烈な睡魔に襲われる。意識が朦朧とする中で、居るはずのない人影を見たり、岩壁が笑い出したりと不思議なものが見えてくる。ユーコン・リバー・クエストの特徴は、後半に誰もが見るというこの幻覚なのだ。スピリチャルな体験に興味があるかたは、是非、参加してみては如何だろう。
夜通しこぎ続け62時間33分でゴール
どうにかドーソンに辿り着いてレース終了、62時間33分(10時間の休憩は含めず)で総合44位のゴールとなった。普通は2週間程かけてのんびり旅をするコースを、3日間で駆け抜けたわけだ。ノンストップで流れる時間を、ユーコンの大自然の中で過ごす貴重な経験になった。いつか機会を作り、今度は一人でエントリーしてみたい。