2024/12/06 09:14
非日常の世界へ
2006年8月、旅行関係者を集め六泊七日の予定で「ユーコンとアラスカを巡るゴールデンサークルルート」を紹介するツアーがあり、僕はそれに参加していた。ユーコンを起点にアラスカを周遊しながら、ダイナミックな自然と歴史のある街を巡る。特にクルアニ国立公園の氷原にセスナで飛び、二日間のキャンプが目玉で、非日常を体験できる豪華な内容になっていた。そう、非日常だ!
カナダ最高峰ローガン山の氷河でキャンプ
ホワイトホースの西158km、ヘインズ・ジャンクションの西側に広がるセントエライアス山系を形成するクルアニ国立公園は、カナダ最高峰、デナリに次ぎ北米大陸で二番目に高いローガン山(5,959m)を中心に広がる大氷河地帯で、2万2,015平方kmの広大な山塊が手つかずのまま残され、ユネスコの自然遺産にも指定されている。地元の人でさえもローガン山を見たことがある人は少ない。一番近い道からも60kmも離れ、周囲を4~5000m級の山々が囲み、おまけに太平洋からの湿った風がローガン山にぶつかり雲に覆われてしまう。まさに幻の山なのだ。そのローガン山の懐にスキーを装着したセスナ機で降り立ち、キャンプで数日を過ごす。キャンプといっても、受け入れ態勢が整った専用施設で、特別な知識は必要ない。
ハイテンション
バンクーバーでトランジット、国内線に乗り継いで夕方にはホワートホースに到着。翌日、待ちに待ったフライトのためにクルアニ湖半にある小さな飛行場に行くと、天候が悪くフライトはキャンセルに。翌日、天候は回復。1泊しかできないので、必要な荷物だけを持って飛行場へ移動。セスナ機に乗り込み、未舗装の滑走路を離陸すると、どんどん山塊の中に分け入っていく。やがて黒ずんだ氷河の端が現れると、どんどん白さを増していく。幾筋もの氷河がまるで高速道路のインターチェンジのようだ。正面にローガン山がクッキリと見えてくると、飛行機はクイーンメリー山(3886m)を見上げる氷原の周りを旋回し始める。
セスナ機は、標高2615mの氷原に無事に降り立った。ダイニングを兼ねたメインテントや宿泊用の個室テントなどが並ぶベースキャンプが設営されている。僕たちの滞在時間は限られているので、のんびりしている時間はない。ガイドと一緒に周囲を歩き、クレバスなどを見て回った。ディナーもスタッフが用意してくれるので、氷原の居心地は最高だ。
迎えの飛行機が来ない!
朝、テントから出ると、周囲は真っ白。この日は下山し、アラスカ州のヘインズに移動、グリズリーやハクトウワシを見に行く予定だが、完全に雲の中。当然、迎えの飛行機は来ない。焦っても仕方がないので、少し離れた岩峰まで歩き、氷原のハイキングを楽しんだ。翌日も悪天候で迎えの飛行機は来ない。周辺をハイキングして過ごすが、日が暮れるのは22時過ぎなので、一日はとっても長い。その翌日も悪天候で迎えは来ない。さすがにスタック3日目ともなると、氷原での遊びにも飽きている。
初めてのオーロラ撮影は・・・
夕方、久し振りにローガン山が顔を出し、夕日に赤く染まった。いつものようにディナーの後の会話を楽しんだ後、明日への期待を込めて就寝した。未明、「オーロラが出てる!」という声で目が覚め、テントを飛び出した。ローガン山の上空にユラユラを淡い光りが動いている。始めて見るオーロラだ! カメラをとりだし、バタバタしている間にオーロラは静かに消えていった。自分の目でじっくり観察しなかったことへの後悔に、出来の悪いオーロラ写真が輪をかけた。夜が明るいこの時期、通常は見ることができない貴重なオーロラだ。
生き方を変えた特別な5日間
オーロラを見た朝。無事に迎えのセスナ機がやってきた。もちろん、それ以降の予定はすべてキャンセル、真っ直ぐにホワイトホースに戻り午後の便でバンクーバーに戻った。
氷原で過ごした5日間は、僕にとてつもない大きなものを残した。持て余す時間の中で、会話の時間は充分にあった。ユーコンの素晴らしさを聞き、自分の目で確かめたいと思った。グリズリーやハクトウワシにも会いたいと思った。そして初めてのオーロラは、想像を超える宇宙の力を魅せてくれた。残念ながら、自慢できる物ではなかったが、もっと上手に撮りたいという気持ちが沸き上がった。あの夏の出来事・・・すべてが2006年の夏から始まった。